観光映像祭を企画運営し、海外の国際観光映像祭のディレクターとの交流が長くなり、観光映像における諸外国との状況の違いに気づくようになりました。ヨーロッパの観光映像の作家にはドキュメンタリー映像のプロフェッショナルが多い。対して日本の場合はCM制作をプロとされる方が多い。そう考えると、日本においてドキュメンタリーを制作する層が諸外国に比較すると薄いのでは、と感じるようになりました。
私自身、映画館で自作をかけていただけるようになり、いつくかの興行主から言われたのは「ドキュメンタリーなので人が入らない」という言葉でした。なぜだろう。それに対しての問いを探すこと、そして若者たちとドキュメンタリーを映画館で見る意味をもっと考えていこう、それがこのページの設立趣旨です。
学生からも「ドキュメンタリー映画は難しい」という言葉を聞くことがあります。その背景を聞いてみると、政治的だ、とか、興味のない内容が多い、とか、様々です。確かに、現在、映画館で見ることができるドキュメンタリー映画、特に話題作となっているものは、テレビ局が主導し、政治の闇をあばく、社会問題に鋭く切り込み、その構造上の問題を議論していく、というものが多いのかもしれません。誰が言ったかわかりませんが、「ドキュメンタリーは“世界の窓”」という言葉をよく聞きます。この言葉が、大学でドキュメンタリー映画を上映していく意味を感じています。
ドキュメンタリー映画には多くの学びがあります。世界のあり方、人生の生き方。それを一緒に考えるのが、和歌山大学ドキュメンタリーシリーズです。
本年度の和歌山大学ドキュメンタリーシリーズ2023では、「なれのはて」「Yokosuka1953」「蟹の惑星」を上映作品として選定しました。水曜日の16:30からの開催。上映後にも監督やゲストを中心に討論会を行います。
2023年12月6日 なれのはて
日時:2023年12月6日(水) 16:30~19:00
会場:和歌山大学観光学部棟 T101号教室
参加費:無料
喧騒と熱気渦巻く生温かいカオス、フィリピンのスラムへようこそ
帰国することを諦めた日本人男性たち
“困窮邦人”と呼ばれる男たちの生活を7年間追い続けたドキュメンタリー!
マニラの貧困地区、路地の奥にひっそりと住む高齢の日本人男性たち。「困窮邦人」と呼ばれる彼らは、まわりの人の助けを借りながら、僅かな日銭を稼ぎ、細々と毎日を過ごしている。警察官、暴力団員、証券会社員、トラック運転手…かつては日本で職に就き、家族がいるのにも関わらず、何らかの理由で帰国しないまま、そこで人生の最後となるであろう日々を送っている。本作は、この地で寄る辺なく暮らす4人の老人男性の姿を、実に7年間の歳月をかけて追ったドキュメンタリーだ。半身が不自由になり、近隣の人々の助けを借りてリハビリする男、連れ添った現地妻とささやかながら仲睦まじい生活を送る男、便所掃除をして軒下に居候している男、最も稼げないジープの呼び込みでフィリピンの家族を支える男…。カメラは、彼らの日常、そしてそのまわりのスラムの人々の姿を淡々と捉えていく。
東京ドキュメンタリー映画祭2021長編部門グランプリ作品。
監督

1969年愛知県生まれ。東京都立大学人文学部社会学科文化人類学専攻卒業。フリーの助監督として原将人『20世紀ノスタルジア』、矢崎仁司『ストロベリーショートケイクス』、松井良彦『どこに行くの?』などに参加。その一方で、企業PR映像や教育映像、テレビ番組のディレクターとしても仕事を続ける。主な演出作品に『フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿 第三夜 クローン人間の恐怖』(NHK BSプレミアム)、『珍盤アワー 関根勤の聴くメンタリー!』(BSフジテレビ)『ザ・ノンフィクション シフォンケーキを売るふたり』(フジテレビ)などがある。
2023年12月20日 Yokosuka1953
日時:2023年12月20日(水) 16:30~19:40
会場:和歌山大学観光学部棟 T101号教室
参加費:無料
2024年1月17日 蟹の惑星
今回の上映は「蟹の惑星」のみ。